猛威を振るう台風の影響により一度は延期され、ひとかけらの期待と共に中止さえも囁かれた訓練登山であったが、7月25日の土曜日、部員全員の願いが天に聞き入られたのだろうか、無事決行されてしまった。この試練を乗り越えたことのある先輩方は「行きたくない」「もう帰ろう」「まだ死にたくない」などと口々に山行の決行を称賛していた。 
(別班のあかりんさんであるが、この写真こそ部員の訓練に対するモチベーションを如実に示しているため掲載させていただく)
月曜に3つのテストが待ち構える田内さんは、暗くよどんだ目をして電車に乗り込み、乗り込むや否や必死の形相でプリントをめくる。「こんな土曜になにやってるんだろう自分は」。そう呟いた彼は、きっと訓練が楽しみで仕方がないのだろう。この山行中で、彼の目に光が戻ることはあるのだろうか。
一時頃に面白山高原駅着く。なぜ一年に二回も、しかも短い期間にこの場所を訪れなくてはならないのか。そんな疑問が胸中をよぎる。忘れもしない前回の面白山。通称“軍隊“と呼ばれる男だけで構成されたチームに配属された自分。他チームを追い越すことのみに喜びを感じる歪んだ感性。会話は必要最低限、登山靴が土を擦る音だけが響く。前軍隊の遺影をここに掲げる。
さて、では改めて今回のチームアキトをご覧いただきたい。
CLを勤めるのはお疲れぎみの部長、野口さん(♂)。
御足労おかけします、フォロワーの金田さん(♂)。
森の精霊、秦さん(♂)。おてんぱテニスプレイヤー、木下さん(♂)。愛と単位を失いかけたアサシン、田内さん(♂)。食事の長、真聖さん(♂)。 *右から
隠れジロリアン、住友(♂)。顔がうるさい、江頭(♂)。麻雀大好きナイスガイ、塚原(♂)。 *右から
………悲劇は再び繰り返される。
駅にてチームアキトのメンバーを再確認、男しかいない変わらない現状にひとしきりがっかりする。真聖さんが日々の鬱憤をぶつけるかのごとくオニヤンマに延髄切りをくらわせていた。彼の心の闇は深い。既に各々が各々に傷を抱えるなか、13時25分登山開始。
前日の雨によりぬかるんだ土の上を無言で登る。空に浮かぶのどかな雲とは裏腹に、一人23キロの重りをしょっていた野口さんはチーム最後尾で静かに白い灰と化していた。
45分の行程を30分ほどで登りきり天道高原キャンプ場に着く。子供達の楽しそうなはしゃぎ声が聞こえ、一同の顔もほころんでいた。子供の純朴さに触れ、心がほぐされたのだろう。「俺が嫌いなタイプの声だ」と真聖さんが呟いたのは気のせいに違いない。
キャンプ場では多くの小学生がはしゃぎ回る傍らで、女子がいないのにも関わらず求愛のドラミングを行うやっさんが一際ういていた。ゼロポイントのザックをバカにしたみなみんは部長の手によりペットボトルで頭をはたかれていた。自分でなく人がいじられているのを見るのは心地よいものである。
今回の食事は品数、クオリティ共に最高峰を誇る。メインのガーリックチキンライスのみならず、サラダ、更には卵スープまでつく徹底ぶりである。調理段階ではカルボナーラの素をご飯に入れる事などに対して不安が募るばかりであったが、最高に美味しかった。八田さんの女子力に打ちのめされた夕食だった。
「ん~」
「あ~やっぱうめえわ」
夕日を眺め、
雑談をし、
テント割の激しいじゃんけん大会を経て、寝袋に潜り込む。多くの人は小学生達の行うキャンプファイアーと花火、サルの鳴き声などにより一度は起こされた。それに続く大人達の宴会は午前二時頃まで続いたそうで、一睡もできなかった真聖さんの目には疲労の色がありありと見えた。

(左端の子は比較的元気)
二時半に起床、持参した朝食を食べ手早くテントをたたむ。慣れない重さにザックを背負い立ち上がるのも一苦労、足元もおぼつかない。そして迎える運命の計量。「こんなに重いのに更に増やされたくない・・・」。部員たちの無言の悲鳴が聞こえた気がした。
無事に計量を突破した4時35分、チームAKITOはキャンプ場を後にする。俺・・・この訓練が終わったら、結婚するんだ・・・(死亡フラグ)。パーティーが幕を開ける。
(田内の目は爛々と輝く)
太陽は空高く上り気温はうなぎ登りに上昇、溢れんばかりの日光は我々の体力を無慈悲に奪う。ザックの重さに比例するかのごとく足取りは重い。吹き出る汗をぬぐい、皆必死の形相で次の一歩を踏み出す。自由気ままに飛ぶ虫を見た木下さんの「お前も30キロぐらいしょってみろよ!!」という悲痛の叫びは八つ当たり以外の何物でもない。
三沢山、北面白山頂と順調なタイムで登りきり、長左衛門平で先発の二隊と合流。歩荷を頬張りつかの間の休息を楽しんでいた。
残念ながら負傷者のでたチームDAIKIは訓練用の水を捨て、エスケープをすることに。とももんやみなみんの頬がほころんでいたのを、僕は見逃さないよ。
8Lをおろせることのみをモチベーションに権現様峠までを乗り切る。「1/3が終わったっってことは1/2はすぐだろ?1/2が終わったってことは2/3もすぐだろ?2/3ってことはもう終わるだろ?つまり帰納法的に1/3が終わった時点で訓練は終わったようなもんなんだよ。」
リポビタンDを片手に肉体的にも己を騙している野口さんは心理的にも己を騙していた。
(終始このような顔をして登っていた気がする)
長左衛門峠を少し過ぎた斜面で水を捨てる。訓練水を頭にかける人、がぶ飲みする人、思い思いに自分の運んできた水を活用する。水なんて腐るほどザックに詰め込んであるのだ、盛大にいこう。
12時ごろに権現様を離れる。背中も軽くなった、水分も十分に補給した、しかし一向に軽くならない足取り。面白いほどに厳しい南面白までの登りが僕らを待ち構えていた。一歩一歩踏みしめるように歩いた二時間は、自分の登山経験史上最もつらい登りであったといえよう。それと同時に南面白の山頂を踏んだ時の喜びもまた一塩だった。
ここさえ乗り切ってしまえばこっちのものである。飲料水を除きすべての水を自然に還した我々は、軽い足取りで無事下山、おいしいお蕎麦を金田先輩からごちそうになり、訓練登山は大成功で幕を閉じたのであった。
P.S. MSLを務めた大地さんやフォロワー、在仙をはじめとする訓練登山・訓練予行に携わってくださった先輩方、本当にありがとうございました。
〈文責:江頭〉
















